長者番付1位となった伝説のサラリーマン投資家
本書の著者清原達郎氏は、2005年の長者番付で1位になったこともある投資家です。ヘッジファンドを運営する投資会社で、サラリーマンが長者番付1位になったという話は、一時期話題にもなりました。
この本は、優秀な投資家であった著者が、最後の仕事という気持ちで本気で書き上げられた本だということです。もちろん、株式投資に関するノウハウや考え方についても詳しく書かれています。
近年、NISAやiDeCoといった個人投資家にとって有利な税制改正があったからなのか、株式投資などへの関心が、今まで投資を考えたこともないような人も含めて、とても高まっているなと感じています。
NISAとは、「一定枠内の投資に関しては、利益に対して税金がかからない」という制度になっていて、たとえば、1,000万円投資して、500万円儲けたとすると、通常100万円(利益の約20%)ぐらいの税金を支払うことになるのですが、この投資をNISA口座で行えば、先ほどの100万円の税金は、支払わなくてよくなるというとても有利なものになっています。
著者も、こんな有利な制度を使わないのはもったいないことだと言っています。
しかし、NISAは、儲かった者にしか恩恵がない制度でもあります。損した者に対しては、逆に不利に働くこともある制度です。
つまり、NISAがどれほど有益な制度だとしても、ただNISAで投資をするだけでは全く意味がありません。NISA口座を有効につかうためには、なによりも儲けることが求められています。
そして、投資で儲けるためには、それなりの知識と経験を積んでいかなければなりません。
長者番付1位の投資術を知ることは、きっと私たちに何らかの気づきを与えてくれるのではないかと思います。
著者自身が投資してきた経験、成功したこと、失敗したこと、良いこと悪いことの両方が書かれています。投資の規模が違いすぎて感覚が合わないこともあるかもしれないけれど、この本を読むことで疑似的な投資体験ができたら、それはきっと大きな気づきにつながるのではないかと思われます。
『株式投資に才能など存在しない。「自分の失敗からどれだけ学んだか」だけだ。』
割安小型成長株投資
この本の著者の投資スタイルを一言でまとめるなら、『割安小型成長株投資』と言えるのではないでしょうか?
割安になっている小型の成長株に投資をする。理想の投資スタイルのほとんどすべてが網羅されている投資法のようにも感じなくもありませんが、その中でも特に投資スタイルとしてイメージが強かったのは、割安という部分のバリュー投資という所でした。
なぜなら本書の中では、バリューだと考えれば、小型や成長にかかわらず購入することもあったかのように感じたからです。
バリュー投資を実践する上で、向いている性格的なものとして、『いつも少数派にいる』という性質が挙げられます。
筆者のものの考え方も、まさにこの『少数派』という位置にいるような気がしました。
多数派の意見や、世間的に正しいと言われていることに囚われない。本書の中でも、この本の著者が「何が正しいかは自分の目で確かめて自分で決める。教師の言うことが正しいかどうかも自分が判断する。他人の言ったことを安易に信じない。」と思うようになったエピソードが書かれていました。
そもそも割安な株式に投資をするというのは、誰も積極的に買いたいと思っていない株式の中から、自分が買いたいと思う株式を探すこととほぼ同意です。人気のない会社や、地味な事業内容、誰も魅力を感じていないそういった会社の中から、きらりと光ったものを探す。まさに『少数派の意見』を持った人たちの得意なところです。
この本では、著者の投資の考え方がいろいろ披露されています。少数派でいることの大切さや、企業を見るときの考え方、マーケットとの付き合い方、そして投資を数学的に考えるベイジアン的発想など、どれもとても有益な考え方だと感じました。
正直投資の本としては、最近ではあまり見られないぐらいの、とてもいい内容の本だったと思っています。
ただ欲を言うならば(個人的には)、筆者の個人的な話や喋り口調で書かれた文章、といったところをもうちょっと何とかできたらよかったのにと思わなくもありませんでした。投資を学ぶのにとても良いことが書いてあるのに、これらが邪魔してしまっているのか、なんとなく内容が軽く感じてしまい、この本の中で書かれている投資の考え方の大切さという所が、薄れてしまっているような印象を持ってしまいました。
それでも、この本には、株式投資がどういうもので、株式市場で勝つということがどういうことなのか、を学べるとても有益な本であることは間違いないと感じています。
効率的市場仮説がどうのこうのとか、過去のデータを参考にすると株式投資が最適、などいったことを、科学で解明したなどといって、あたかも誇らしげに(もっと言えば、ちょっと無責任な)説明をしている本などよりも、よほど現実的な世界で、実践と経験に基づいた、血の通った内容なのではないかと思いました。