老後の生活資金をプランニング

本書は、株式投資の本というよりも、老後資金について考えるリタイヤメントプランニングの話題が中心になっています。

ほとんどの人が気になっていると思われる。仕事を引退した後の老後の生活。今では人生100年時代などとも言われ、退職して給与収入がなくなった後の人生が、とても長くなってきています。

さらに、医療や介護などの問題も考えられ、ますます老後への不安は尽きません。

そんな中で、収入の主となるものは、公的年金です。しかし、その公的年金も、国の財政や少子高齢化などの経済的な不安もあり、自分たちが公的年金をもらうようになった時に、果たして十分な年金額を受け取れるのかどうかも不安に感じるところです。

本書では、以前に話題になったことがある、『老後資金として2000万円が必要になる』という話題に着目しています。

この数字は、すべての家庭に当てはまるものではありませんが、参考になる数字だとも言っています。この本の著者は、現職をリタイヤしていることもあり、この本に書かれている内容は、実体験としての意見も含まれているものと思われます。

そして、『老後資金の2000万円』というこの数字は、見方を変えると、「毎月約6万円のおカネが不足する⁉」という意味にもなります。

『老後資金2000万円』の話の元となった、金融庁のレポートによると、老後の世帯生活費は、平均月28万円。対して平均的な夫婦の老齢年金の額が、月22万円。なので、その差額の6万円が生活費として不足することになるということでした。

さらには、ゆとりのある老後を送るための生活費は、平均月36万円という数字もあり、その場合の平均的な老齢年金との差額は、月8万円になると書かれていました。

2000万円という数字は、月6万円の不足額を30年間(95歳まで)で計算すると、2160万円になるので、おおよそ2000万円が不足することになるというわけです。

そして、「2000万円なんてお金、いまさら65歳までに貯められるか!」ということで、この話が話題になったわけです。

しかし、総務省の家計調査によれば、60歳~69歳の2人以上世帯の平均貯蓄額は、2460万円(2023年1月~3月期)あるらしく、調査の数字から見るならば、老後資金の2000万円問題は、たいして気にするようなものでもないのかもしれません。

しかし、今の退職者たちが大丈夫であっても、これから退職を迎える現役世代にとっては、また別の問題です。

どうやって、老後の生活費を工面したらいいのだろうか、せめて平均的な生活費として足りない6万円だけでもなんとかしたい。

そしてこの本のタイトル、「一生、月5万円以上の配当を手に入れる」の話に繋がってくるわけです。

配当金と業界トップ

老後不足する月6万円の収入を確保するために、配当金に着目した株式投資をしようというのが、本書の目的です。

この本の著者は、株式投資に求めるものは、価格が変動することによって手にする『評価益』や『売却益』ではないと言っています。そもそもそういった値動きを狙った利益を求めることは、ギャンブル的なものだとさえ言っています。

確かに、株価の値動きが予測できないことは、株式投資をしている人ならば、誰もが体験していることだと思います。値動きを利用して利益を得ようというのは、あまり現実的な利益ではない、という話も良くわかります。

しかし、配当金ならば、ある程度予測することが出来る。さらに言えば、業界トップの超大手企業の配当金なら、より配当金で得られる利益の予測精度は高くなります。

老後の生活という現実的な問題の中で、一か八かのようなギャンブル的な株価上昇の利益を求めるよりも、配当金という現実的な利益を手に入れることを考えながら資産を作ることの方が、より理解しやすい考え方だと思われます。

そのために、本書では『配当金×業界トップ』という投資戦略を提案しているわけです。

配当金に着目した投資戦略としては、『高配当株式』という考え方が有名です。しかし、ただ配当利回りが高いというだけではなく、「高配当利回り銘柄への投資」をどのように考えて行ったらいいのかも、本書では著者の実体験などを基に解説をしてます。(第4章と第5章)

本書は、株式投資の本であるとともに、老後の資金計画についての話でもあります。特に最初にも書きましたが、主となる内容は、老後の資金計画の話になっています。

そんな中で、特に注目した内容は、老後に向けて借金を減らすという事が、当然のように言われているように感じますが、著者の経験からも、老後前に「借金をゼロ」にするという事が、必ずしも良い事ではないという話でした。

借金があることよりも、手元に現金がなくなることの方が、問題なのではないかということを説明していました。

この視点には、同感しています。いつでも使える現金があるというのは、心理的に大きな安心感につながります。

たとえば、借金が1,000万円あっても現預金に1,100万円のお金がある状態と、借金はゼロだけど現預金は100万円しかないという状態、どちらの方が安心して生活できるのだろうか。

著者の意見によれば、借金はあってもいいのではないかと言っています。老後だから借金してはダメと考えるより、リバースモーゲージなどの老後ならではの借入方法を活用してみたりするなど、借金を悪と決めつけず、「資産と負債の両建てで生活を豊かにする」という考え方を提案しています。

さらに言うならば、住宅ローンのような借金が残っていたとしても、手元にある豊富なキャッシュを有効活用して、高配当株式のような定期的な収入を得るための資産にすることで、生活を豊かにすることも出来るのではないかと提案しています。