『負けない投資術』 ジョーダン・ベルフォード(著)

レオナルド・ディカプリオ主演の映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』。

ちょっと過激な演出で好き嫌いの分かれる映画なのかもしれませんが、株式投資の株式を売る側から見た金融市場の驚きの世界が描かれています。

金融商品を取り扱うビジネスの世界では、正直に言ってしまうと、とても誠実とは言えない営業行為が行われていることが本当に多く、私たちの身近なところでも無視できない話でもあります。

この映画はまさに、そんな世界の最も激しい世界を垣間見れる映画でした。

そしてこの本は、その映画のモデルとなったジョーダン・ベルフォードが書いた本になります。

つまり、金融市場の最も汚い世界で生きてきた人から見た、もっともまっとうな投資とは何かということを教えてくれる内容になっています。

そのもっともまっとうな投資とは何かということについての結論を言えば、インデックスファンドで運用することだと言っています。

金融市場の汚い部分を避けながら金融資産で運用をするには、S&P500などに連動する手数料がとても安いインデックスファンドなどを使うことが、最も効果的なのではないかということが書かれていました。

金融市場のもっとも恐ろしい世界を見てきた人が書いているだけに、この本の話には、とても信憑性があるように感じました。

金融市場の闇

この本の構成は、大まかに言えば、まず金融市場の闇についての話があり、その後、その闇を避けて金融資産で堅実な運用をするために、インデックスファンドを利用することについての話でできています。

現代の金融市場が出来た背景などから説明がされていて、非常に面白く読むことが出来ました。

本を読むと、そもそも今の金融市場の歴史の成り立ちからして、非常にブラックな部分が多いということが分かります。

金融のブローカーたちが、手数料という収入を得るために、さまざな仕組みを駆使して、上手にビジネスを行ってきたというのが金融の歴史であり、金融の世界とは、金融機関たちがそこで利益を得るために作られた世界だったと言っても過言ではないのかもしれないと感じる内容でした。

そもそも金融とは、右から左にお金を流すことで、ピンハネをするビジネスです。

銀行は、預金者から預かったお金を、勝手に第三者に貸し出して、利息という名のピンハネをするビジネスです。証券会社は、株式などの証券の売る人と買う人の間に入ることで、ピンハネを行っています。

そして保険会社に至っては、もうどこでピンハネをされているのか分からないぐらいに、いろんな方法でピンハネをしています。

お金の大小にかかわらず、金融機関にお金の管理をしてもらうということは、知っているかいないかに関わらず上手くピンハネされている。これが金融の世界だというわけです。

本書の中では、現在世界のトップに君臨している超大手の金融機関こそが、その闇を生み出す親玉になっているといった事も言っています。

つまりは、私たちが株式投資などの金融取引で利益を手にするためには、その金融機関にピンハネされている物を、私たちの手に取り戻さなければならない。ズバリ言えば、金融機関とのかかわりをできる限り減らし、金融機関に支払うものを極力減らすことをしなけらばならないということでした。

優しそうに見えるあの営業員も、あの有名な金融機関も、みんなピンハネビジネスの一部です。

本書によれば、雑誌やネットの情報、一部の本や、ビジネスニュース、広告、といったマスコミの人たちも、金融機関のピンハネビジネスに加担している。

そして、私たちのお金を、そのピンハネビジネスから遠ざけるためには、インデックスファンドを使うことが最も堅実な選択肢となるのだろうというのが、本書の主題になってきます。

インデックスファンドのすごいところ

人からピンハネをすることが金融機関の主なビジネスモデルなのですが、インデックスファンドはその流れに逆行するようにして作られました。

そのインデックスファンドを世に広めたジャック・ボーグルは、運用にかかるコストを徹底的に下げながら、世の中のほとんどの投資信託の成績を上回ることができる方法を、インデックスファンドによって成し遂げました。

現実、世にある投資信託のほとんどは、インデックスファンドを長期的に上回ることが出来ていません。

それでも、かっこいいパンフレットを作ったりや、スター投資家の名前を使ってみたり、広告や営業のテクニックなどを使いながら、金融機関は、何とかして手数料が高くてパフォーマンスの悪い投資信託を売ろうと躍起になっています。

それに対して、ジャック・ボーグルのインデックスファンド(バンガード社)は、営業や広告にそんなにお金をかけることがなかったのに、とても人気のある商品となりました。これはバンガード社の営業力ではなく、口コミによるものだと言われています。

その中でも、インデックスファンドにとって、大きな転機になったと言われているのが、投資の神様ウォーレン・バフェットとヘッジファンドの戦いです。

バフェットは、インデックスファンドが、投資信託の花形であるヘッジファンドを上回るリターンを出せる方に、大金を賭けたというエピソードが、本書で紹介されています。

そしてその結果は、バフェットの圧勝で、インデックスファンドはヘッジファンドに勝つことができ、しかもその差は、圧倒的な大差をつけての勝利だったというのは、過去に話題にもなりました。

至極真っ当な投資の仕方

本書で紹介されている投資法まとめるならば、至極真っ当な投資法だと言えそうです。

投資に使う投資信託は、S&P500に連動するインデックスファンド。いくつか具体的な銘柄名も紹介されていますが、とにかく手数料が安くインデックスファンドとして効率的に機能しているファンドを利用することをお薦めしています。

ただ、紹介されている銘柄は、米国内に住んでいる人に向けたものだと思われるので、日本に住んでいる私たちにとっては、本書で紹介されている米国の商品ではなく、税制上の観点からも、国内の投資信託かETFを利用するのが賢明なのではないかと思われます。

そして、長期的には株式のインデックスファンドが有利だという話に、疑いの余地はないと思いますが、この本の著者は、短期的なリスクに対応するために、債券の投資信託やETFも持つことを薦めています。

その場合に出てくる懸念として、投資資金の一部を債券にしてしまうと、投資全体のパフォーマンスが下がってしまうのではなないかという話になったりするものです。

しかし著者は、それによって起こるパフォーマンス低下は、リスクへの備えができるのに比べたら、とても微々たるものだと説明しています。本書の中には、その話を具体的な数値にして表にしてあったので、参考に見てみるのもいいかもしれません。

それと最後に、著者が義理の弟に投資のアドバイスをする場面で、資産配分についてアドバイスをしているところがありました。

適性な資産配分については、年齢や個人の経済情勢などから公式のように導く方法も考えられていますが。

著者のアドバイスでは、「一部は科学、一部はひらめき、そしてまた一部は勘である。」と言っていました。

AIなどで計算やデータによって答えを導き出すのもいいですが、やはり現実的には、『ひらめき』や『勘』というのは、重要な要素なのかもしれないと思いました。

結局、相場の動きに対してその人がどう感じるのか、大きく値動きしてドキドキしてしまうのか、もしくは同じ値動きに対して、たいして動かなくてつまらないと感じるのか。

人それぞれ、感じ方は違うものです。そして、その感じるものというのは、どんなに勉強をしてみても、数字を使ってシミュレーションをしてみても、決してわかる物ではありません。実際にやってみて、体験して初めて分かるところもあります。

人にアドバイスをするのなら、なおさらで、アドバイスを受ける人の人となりを知らなければできないことだし、それを知ってもなお、最終的には『ひらめき』や『勘』に頼らざるを得ないものなのだと思います。

そういった点でも、筆者が義理の弟に行った、アドバイスは、とても実践的なものだったのではないかと感じました。

それだけに、本書の内容は、真実味のある、まさに筆者の本音が書かれているのかもしれないとより感じられました。