『富裕層のための米ドル債券投資戦略』 世古口 俊介 (著)

富裕層の資産運用は、増やすことよりも、守ることを重視していることが多く、そしてさらに、守りながら利息などのインカムゲインを求めることが多いため、債券投資は、まさにその用途にピッタリの金融資産だと言えます。

株式投資よりも債券投資の方が安定していそうだというのは、素人目にも思うところなのですが、資産運用の話の中で、株式よりも債券に重点を置いて解説している例は、ほとんど見られません。

そして、債券投資中心の資産運用の本というのは、ほんとうに少ないと感じています。

そのような中で、この本は、まさに債券投資を学ぶための本として、内容がとても充実していると感じました。

債券投資とはどういうものかから始まり、仕組みや種類、格付けなどの債券についての基本的な基礎知識から、さらに、国債、普通社債、劣後債、さらには永久劣後債やCoCo債といった、様々な種類の債券について解説しています。

そして、実際に債券に投資をするにあたっての、分散投資の仕方、つまりは債券投資のポートフォリオ作成の実践例が紹介されています。

この本の著者は、自らも債券投資を実践しているらしく、実際に著者自身の債券ポートフォリオも紹介されています。

債券投資を学ぶにあたって、また実際に債券投資を始めるにあたって、基本的な事項が網羅されていて、本書は債券運用を始めるのにとても参考になると感じました。

債券のリスクは、倒産のリスク。

債券投資は、一度債券を買ったら、あとは満期まで元本が返ってくるのを待つだけ。そして満期が来るまでの間は、利息というリターンを受け取り続ける。

とてもシンプルな金融商品に思えるし、実際そんなに難しいものでもないのかもしれない。

債券投資は、ただ買ってそのまま放置するという単純な投資であるためか、債券投資について詳しく説明するFPなどの専門家や、債券投資のための書籍というのは、あまり見られません。

本書の中でも説明がありますが、債券投資のリスクというのは、その債券の発行体が倒産するリスクだと言う事も出来ます。

債券の発行体、国なり会社なりが、倒産やデフォルトさえしなければ、元本は当初の契約通りに戻ってくる約束になっています。

国なり会社なりが、財政に不安を抱えていても、最悪のことが起こらなければ、その約束は守られます。

つまり債券投資と言うのは、倒産やデフォルトにならないかどうかにさえ注意を向けていれば、比較的安全で、元本を毀損することを恐れる必要がない投資先と言えるわけです。

考え方がとてもシンプルです。だからこそ、本やセミナーなどでお金のプロと呼ばれる人たちが、専門家っぽく話をする対象として、債券という金融商品は、あまり好ましい題材とならないのかもしれません。

債券投資は、意外と面白い投資対象なのかも?

シンプルで簡単なもののようにも見えるのに、実際に債券投資をしようと思うと、意外とその窓口は広くない。むしろ債券よりも難しい投資対象であるはずの、株式の方が投資しやすい環境があったりするものです。

本書を読むと、債券投資と言うのは、思っている以上に奥が深い投資なのかもしれないという事が、なんとなく感じられてきます。

買って満期まで保有するだけの債券投資なら、単純なものですが、債券を売買する債券トレーダーの世界は、まさにプロの世界だと言われています。債券市場は、株式市場以上に、素人が取引すると痛い目を見る可能性が高い世界だとも言われています。

本書の債券投資の内容は、基本的に満期まで保有する目的の運用法になっています。

ましてや今は、米国の金利は米国の経済力以上に高い状態になっていると考えられているので、超長期の債券に投資をするには、良いタイミングなのかもしれないとも説明しています。

債券投資のリスクは、倒産やデフォルトになるリスクだと先に言いました。

ただ、債券投資で高い利回りを求めようとすると、倒産やデフォルトの可能性が高くなり、逆に安全思考で思考停止してしまうと、十分なリターンが得られないことになったりもします。

債券投資で良い感じリターンを得るためには、リスクが高くもなく低くもない、ちょうどいい感じのバランスで投資をする必要があると本書では解説しています。

そしてそのバランスをとるための方法が、投資の基本でもある分散投資、そしてポートフォリオで運用するという考え方になってきます。

本書では、債券投資の考え方から、ポートフォリオの実践例まで説明されており、債券投資をするにあたって、これほどわかりやすい本に出合ったことは、あまりありません。

実際に自分で債券投資を行っている者が、実務的な運用方法の説明やポイントまで説明している債券投資の本というのは、ほとんど見かけたことがありません。

これから債券投資を始めてみたいと考えている方にとっては、きっと参考になる本になるのではないかと思いました。