『世界標準の資産の増やし方』 河北博光(著)

インフレ、年金不安、NISA、iDeCo、金融リテラシー向上、私たちの置かれている環境は今、積極的に資産運用にかかわっていくことを求められつつあります。

他の先進国を見ても、国民が政府に頼って生きていくという世界ではないと聞きます。

特に米国では、約6割の人が何かしらの形で株式に投資をしているという話です。

また、日本人の金融資産の中心が現預金なのに対して、他の先進国では現預金よりも、株式や投資信託といった金融資産の方が多かったりするという話は、結構有名な話です。

たとえば米国の場合には、中流階級以上の家庭のほとんど全員が株式などで資産運用をしているという話でした。

今までの日本は、デフレ下にあったために、株式などで資産運用をするよりも、現預金で蓄えておくだけで良かった。しかし今後インフレが当たり前の時代になるのだとしたら、同じやり方では家計を守ることができなくなる恐れがあります。

これからの時代は、資産運用のスキルが、他の先進国と同様に、私たちが安心して暮らしてくために必要なスキルになってくるのかもしれません。

インフレの世界を疑似体験する。

本書の第一章では、世界の人たちの資産運用とのかかわり方が紹介されています。

これから日本にも訪れることになるのかもしれない、インフレという時代。そして、そのインフレの中を生きている世界の人たちが、どのようにお金と付き合ってきたのか。

それを知ることから本書は始まります。

ライフプランやマネープラン、そしてそのプランにどう資産運用を組み合わせるのか、これからの私たちの生活にとって、参考になる話なのかもしれません。

その中で特に感じたのは、資産形成ができると、ライフプランに余裕が持てるということでした。

資産運用は本来、お金を増やすことが目的ではありません。日本では、資産運用というと、「お金を増やす」というイメージがついているようですが。本来は、「財産を守る」ということが、資産運用の本来の目的です。

世界標準の資産運用の考え方とは、まさにそこにあります。

では、財産を守るといっても、一体何から財産を守るのか。

戦争、政治、災害、犯罪、そういったものから守るという意味もあるのかもしれませんが、一番は、『インフレ』への対応です。

インフレの世界では、いくら稼いで、節約し、貯蓄をしたとしても、身の回りのものの価格上昇によって、その貯蓄の価値はどんどん目減りしていってしまいます。

つまり、インフレの中では、ただ貯蓄をしていても意味がない。

自分が仕事をして稼いだお金や、先代から受け継いだお金の価値を守るためには、そのお金が、インフレで価値を減らすことがないように管理しておかなければならない。

それが、資産運用の本来の目的になります。

インフレになっても価値が目減りしないように、様々な手段や貯蓄方法を使って、資産を守るために、株や債券、不動産とった資産へ分散して保有しておく。

これからインフレの時代に入るとも言われている日本。

自分が稼いで蓄えたお金を目減りさせることなく、将来有効に利用できるようにするためには、この世界標準の資産運用の考え方を取り入れることが必要になってくるのかもしれません。

そして、そういった資産の管理ができるようになると、今後どんな時代になったとしても、自分で自分の資産を守るスキル(資産運用のスキル)をもっていることで、人生のマネープランやライフプランにも余裕が持てるようになれるのではないかと思います。

現場感覚の資産運用の考え方

本書の資産運用の考え方は、理論的というよりも現場感覚に近いもののように感じました。私自身のもっている資産運用の考え方とも近いような印象がありました。

資産運用をする上では、理論も大切ですが、人は理論通りに実行できない不合理性も持っているということも忘れてはいけないと思っています。

だからこそ、投資や資産運用に関しては、理屈だけでなく、『経験』や『勘』も大切な要素になってきます。

例えば、リスクの考え方については、理論上では価格が変動する大きさやばらつきなどを統計的な手法で分析する手法が行われていたりしますが。

実際の感覚としては、理論で示すものと同じになっているように思えない時もあるものです。

例えば、株式投資で資産を築くことが出来た人の投資の仕方を見ると、主に集中投資とタイミングの良さが目立ちますが、この2つの投資のポイントは、理論上はあまり良くない方法だと言われることがあります。

「長期・分散・積立」こそが、資産運用の正解だという風潮があるように感じています。

しかし、現実世界では投資で成功した人の多くは、集中投資とタイミングの良さが際立っています。

この集中投資とタイミングを実践することができるかどうかという別の問題は残りますが、その点についても著者なりの考えを本書の中では説明していました。

また投資の正解とも言われているインデックスファンドについても、この本の著者は「無駄の多いやり方」と表現しています。

ただ基本的には、インデックスファンドは、資産運用の数少ない正解の一つであるという認識を持っているらしく、著者自身の個人資産はインデックスファンドで運用しているという話でした。

とはいえ、著者の場合は、ファンドマネージャーという職業上、運用していファンドに何らかの影響を与えてはならないという理由から、個人資産についてはインデックスファンドを利用しているということらしく、引退後は個別株投資をしたいと書いてありました。

結果的には、個別銘柄で運用するよりも、インデックスファンドで運用した方のが効率的なのかもしません。

しかし、個別銘柄に投資をすることで得られる経験は、とても価値があると著者は言っています。

これについては、私も同感です。

個別銘柄を購入することは、その企業とつながりを持つことを意味します。つながりができると、その企業のことが気に入っている、または応援したい、そういう気持ちがはいったりします。

正直インデックスファンドでは、そこまで気持ちが入ることはまずありません。

株主になって企業のオーナーになると、その企業から株主優待が届いたり、株主通信などが届いて、事業状況の報告や経営者のメッセージなどを読むことが出来たりします。

言ってみれば、たったその程度のことなのかもしれませんが。それによって、自分がその企業のオーナーだということを自覚することもあるものです。

そしてただの株主ではない企業のオーナーという意識が生まれることで、株式投資は途端に面白くなってきます。

景気や経済、政治や社会、企業が行う事業や商品やサービス、そこに意識が向かうようになると、お金儲けではない、株式投資との付き合い方になってきます。

そして、この『面白い』と思う気持ちこそが、株式投資にとっては、きっと最も大切なことで、株式投資でちょっと嫌なことに直面しても、簡単にやめられなくなります。

たまに大暴落が起きようとも、大きな損失を負うことになっても、株式投資への興味が尽きないという人は沢山います。

つまりは、『面白い』と思う気持ちは、いつまでも株式投資を続けるモチベーションにつながります。

株式投資の数少ない正解の一つに、『長期投資』というものもあると思っています。

たとえ間違ってもいい、失敗してもいい、ただ長期間投資を続けることさえできれば、きっと何年後か何十年後かはわからないけれど、最終的に投資は上手くものです。

資産運用というのは、理論だけで出来るものではないのかもしれません。哲学や心理的なものなど、一見投資とは関係なさそうなものも含めて、いろんなことが絡んでくるものなのかもしれません。

この本の著者のような、『理論』と『実践』の両面から資産運用を考えるというのは、とても大切なことなのかもしれません。