『年1時間で億になる投資の正解』 二コラ・ベルべ(著)

「年1時間で億になる」はちょっと言い過ぎなのかもしれないなと思いました。

タイトルとしては、「おっ」と思わせるような文言なのかもしれませんが、本書の内容としても「1億」という数字までは掲げていなかった印象です。

ただ確かに、資産形成のためにかける時間としては、年1時間で十分というのは正しいと思います。

それ以上投資に時間を費やしても、おそらく運用の成果はそれほど大きく変わらない。

だとすれば、投資する金額のことを考えず、投資に使う時間だけで考えるなら、年1時間で1億というのは、的を得ていると言えなくもありません。

本書では、主に指数連動型の投資信託を使った資産運用について書かれています。

指数連動型の投資信託のことを、インデックスファンドと言いますが、このインデックスファンドを利用する目的とその理解のために書かれているのが、この本です。

正直に言えば似たような本は、それこそたくさん出版されているので、今さら感もなくもありません。

ただ、「ここに書いた情報や原則は何年もかけて、たいていは屈辱的な失敗と引き換えに蓄積してきたものだ。」と本書の中にも書かれている通り。

この本の内容は、著者自身の経験と何十年という時間をかけてたどり着いた、ある意味資産運用の極地だと言えなくもありません。

インデックスファンドが、資産運用の極地的なポジションにあることは間違いないのでしょう。

多くの投資家たちが、いろんな投資を経験していく中で、さまざまな失敗や成功を重ねながら、結局最終的にたどり着くことになるのが、インデックスファンドであることも多いと感じています。

しかも、そのさまざまな経験の中で特に直面することになるのが、著者も言っている通り、「屈辱的な失敗」であることも、経験者ならばわかる話なのではないでしょうか。

株式投資で膨大な資産を築いた著名投資家のウォーレン・バフェットが、インデックスファンドを世に広めたジャック・ボーグルを、「アメリカの投資家に最も多大な貢献をした人物の銅像を建てるとしたら、間違いなくジャック・ボーグルだ」と言っているエピソードもありました。

株と債券のETFで運用する

著者のお薦めの投資先は、ETFという商品になります。

ETFは、株式市場に上場している投資信託のことで、一般の投資信託とは違い、株式を買うのと同じように注文して、購入することになります。

ETFのメリットは、運用コストです。

投資信託の運用には、運用期間中ずっと投資資産から差し引かれることになる信託報酬というコストがかかりますが、この信託報酬手数料が比較的安く済むことで注目されている金融商品です。

金融資産への投資にかかるコストを下げることは、直接的にリターンにプラスの影響を与えることになるため、資産運用ではとても重要な視点になります。

この本では、このETFを使って、株式資産のETFと債券資産のETFへの投資を推奨しています。

株式と債券を一定の割合で保有して運用する、ポートフォリオでの運用を薦めています。株式一択ではなく、債券も保有するという運用スタイルは、市場の暴落に備えることを目的としています。

この暴落に備えるという姿勢は、まさに経験者の意見だと感じました。

過去のデータを持ち出して、「株式市場が暴落しても、最終的にはその暴落から回復しているのだから問題ない」という意見もたまに見かけたりします。

過去の株式市場のチャート図を見れば、それが事実であることはよくわかります。

ITバブルやリーマンショック、コロナショック、金融市場ではさまざまな暴落局面が現れましたが、最終的にはそのすべての局面から回復し、その後最高値を更新していく様子が見られます。

だからと言って、「投資先を債券に振り分ける必要はなく、株式資産一択で言い」というのは、理屈だけの頭でっかちな発想だと、経験者ならばみなが思う事なのではないでしょうか?

私たち人間の見ている世界は、実はそれほど長いものとはなっておらず、とても短期的な視点で行動しているということが行動経済学によって分かるようになってきました。

つまり、暴落してその暴落に耐えられる精神を持っていないのが、私たち人間ということです。

「投資資産の価値が下落する可能性を受け入れることは、長期的に資産を増やすのに必要な対価だ」と本書にもあるように、暴落することは当たり前だと考え、そしてその暴落の時にいかにメンタル的に耐えられるようにしておくかが、資産運用最大のポイントだと言えます。

市場の暴落に耐えるためのメンタル的な問題を解決するために、債券という資産がとても重要だと著者が考えていることが本書から感じられます。

「理屈ではなく、どう感じるか」

実は、資産運用ではそれが肝になってくるという事がわかります。

まさに、さまざまな局面を経験してきた人、そしてそれを乗り越えてきた人ならではの視点だと感じました。