『イングランド銀行公式 経済がよくわかる10章』 イングランド銀行 (著)

さすが金融大国だなと感じさせる本でした。

国民に、経済のことをもっとよく知ってもらおうという姿勢がとても感じられます。

経済のことを知ることで、もっと豊かになれる。「経済学の知識はあなたをより幸福に、健康に、ゆたかにすることができる」と言っています。

ただ、経済学という言葉には、一般にはなかなか受け入れられないところがあることも事実です。

まず、小難しい話という印象が強い。また専門用語がたくさん出てきてわかりにくい。さらに最近では数式などをつかって経済を表現したりしているために、さらに難解になっている。

わけがわからない話でありつつ、そのややこしい話のほとんどが、実生活には全く役立たないという事がさらに、経済学から遠ざかってしまう理由になっている気がしています。

しかし、経済というのは私たちの生活にとても身近なものであるはずのものです。

何も株式投資や事業活動などをしていなくたって、会社で働いたり、食材や日用品を買ったり、旅行に出かけたり、そんないつもの行動が、世界の経済活動につながっている。

経済を知ることは、自分の生活のありかたを考えることにつながることなのかもしれません。

日常生活の中から、経済学を知る。

経済学とはそもそも、需給の流れ、希少性を扱う学問だと言っています。

つまり、需要があり希少性の高いものに価値が生まれ、需要が弱く希少性のないものは価値が低くなる仕組みがあるという事から始まります。

この仕組みで、インフレや労働市場、金利や貿易といったところまで、経済活動のおおまかなところは把握できるようになる。

わかりやすいと言えばわかりやすい話なのかもしれません。

本書では、まず私たちの身近なところの話題から話が始まります。

私たちは日々、本当にたくさんの種類の食べ物に囲まれていますが、そういう環境はどうやってできているのか。

また今の私たちが50年前にタイムスリップしたとしたら、その生活をどう感じるのか、おそらく物足りなさを感じることになると思われますが、そこから経済が成長するという事を知ることが出来ます。

給料が上がってほしいとは思うけれど、そもそも賃金が上昇するというのはどういう事なのか。

などなど、この本を読むことで、日常生活の延長線上に、経済があるということを感じさせてくれます。

経済学は、この本一冊で十分?

経済学者ではない、私たちが知りたい経済の話は、この一冊で十分と言える本だと感じます。

しかも、変な数式などは出てこないので理解しようと苦しむ必要もなく、ただ読むだけでも十分意味があるものだと思いました。

そもそも経済学で扱う話のほとんどは、本書でも説明されていますが、条件付けされた『仮定』の話として理論が展開されています。

その『仮定』のモデル上は、うまく理論を説明できるものであっても、そもそもそのモデルが間違っていた場合には、現実には全く通用しないものになりかねません。

実はそのモデルが正しいものなのかどうかが、最近疑わしくなっても来ているという話もあります。

たとえば従来の経済学では、『合理的経済人』というモデルをつかって経済を説明してきたわけですが、どうやら現実世界の人間に『合理的経済人』はいないというのが、最近の考え方としてあるのだそうです。

おそらくこのようなところから、一般の人にとっては、「経済学を学んでも、現実には通用しない」という認識になってしまっているのかもしれません。

しかし、それでも経済のことは、学ぶだけの価値があるものなのかもしれません。

確かに、細かな部分や、正確な部分では間違っていることもあるのでしょう。

でもおおまかなところは、だいたい合っているような動きを見せるところもある。

つまりは、一般的な知識としては、そのおおまかなところを学べばいいということです。

本書は、その経済学のおおまかなところを学ぶ本としてとても有意義な本だと思いました。

本書の最後の方に登場するシャーリーンという女性は、最初は経済学のことをとっつきにくく、退屈な話だと思っていたそうです。

しかし、経済学が意外と日常的な話とつながっていることを知って、経済学に対する印象が変わり、そしていつしか、買い物や家賃の支払い、転職活動などに、意識せずに経済学を活用するようになっていたという話がありました。

このエピソードは、本書の冒頭の方にあった、経済学とは、そもそもギリシャ語では「家計の管理運営術」といた意味を持っていたという話を、改めて思い起こされました。