『親子で学ぶ どうしたらお金持ちになれるの?』 橘玲(著)
「人間は合理的ではないからこそ、合理性が大きな武器になる」
著者がこの本に込めたことを一言で言い表すとしたら、この言葉になると言っています。
この言葉は、簡単な言葉のようで、とても奥が深い言葉です。
この本の中の話のほとんどは、お金のことなど経済的な判断を、いかに合理的に判断できるようになるかを教えてくれています。
しかし、いくら「合理的な」判断の仕方を学んだところで、実際の生活の中でこの「合理的に」を実践できる人は、なかなかいないものです。
なぜなら、著者も言っている通り、私たち人間は、そもそも「合理的ではない」からです。
まずこのことを理解できないと、きっと私たちは、『合理的』から離れた人になってしまうのではないかと思っています。
「合理的でないことを理解できないと、合理的な判断が下せない。」
矛盾しているようですが、これは紛れもない事実だと思っています。
そして、お金持ちになるというのは、その合理的に判断できない人間という種の中で、人よりも比較的多くのことを合理的に判断できることが、ポイントになってくると著者は教えてくれています。
合理的な判断とは?
本書の話は、その多くが合理的に判断を下すための考え方や方法をアドバイスしてくれています。
子供と一緒に考えられるクイズを出して、その答えについて解説していく中で、どういう判断が合理的なのかという事を学ぶスタイルです。
そしてその合理的な考え方の中に、お金持ちになるためのヒントがある。
「なぜお金が必要なのか」、「友達の法則?」、「勉強をする理由」、「約束を守ること」、「誠実であること」。
これらの話は、合理的とは程遠いことのようにも感じるかもしれませんが、実はこれらすべてがこの世の中で上手く生きていくための合理的な判断だという事が、本書を読むとよくわかります。
指定した時間に平気で遅れてくるような人は、相手の人にとっては、非常にコスパが悪い。
そして、自然とコスパの良い人たちだけで集まるようになっていき、その中で良い取引が出来る環境が出来上がっていく。
この話は大人だけに限らず、子供の友達同士の付き合いであっても似たようなものかもしれません。
知らず知らずのうちに、馬が合ってコスパのいい友達と多く付き合うようになっていく。
説明の流れはとても論理的、論理的というと生活圏のことから離れているようにも聞こえなくもないけれど、実際の私たちの生活の中にも、そういう所はあるかもしれないと思いました。
合理的であれば、「約束を守り」、「誠実であること」、というのは理にかなっているのかもしれない。
合理的な話と聞くと、数字や数式で説明されるという印象もあるかもしれませんが、本書の中では、あまりそういう話な出てきません。
どちらかというと、先ほどの「約束」の話のような内容が多くなっているので、子供も大人も読みやすくなっています。
個人的に一番感慨深く感じたのは、『努力の限界効用の逓減』の話でした。
ほとんどのことが、そこそこの努力で全体の80%は達成できる。そしてそれを超えて、残りの20%を得るためには、圧倒的な努力が必要という話です。
つまり、そこそこの努力でも80%が達成できるなら、無理に努力する必要はないということになります。
むしろ、一つのことで80%以上の能力を身につけるために努力をするよりも、たくさんのことをそこそこの努力で身につけていった方が、いろんなことが出来る人になり、世の中で重宝されるという事になります。
でも、本当にそうでしょうか?
たとえば野球選手の大谷翔平は、人が超えられれない80%以上のものを身につけたことで大成功しました。つまり、それこそ圧倒的な努力をしたことで、大きな成功をすることが出来たわけです。
ただ、だからと言って努力すれば成功するというわけでもない。80%を超えた努力というのは、なかなか報われないという事になる確率も高くなる。
『努力の限界効用の逓減』とは、この80%を超えることが必要かどうかをどう判断するのかという話なのだと思いました。
80%できれば構わない分野のことであれば、不必要に努力をする必要はない。
だけど、80%以上、たとえば90%や95%を狙う分野なのであれば、人よりも相当の努力が必要になる。しかも、報われないかもしれないという事も受け入れつつ、という事を教えてくれているわけです。
そして結論を言えば、報われなくても努力できること、つまり『好きだ』ということが、なぜこんなにも強いのかということを教えてくれているわけです。
あくまで個人的な見解ですが、この本の著者は、ちょっと人と変わった視点を持っている人だと思っています。
この著者の書いた他の本も読んだことがありますが、この本への感想としては、「この人らしいな」という印象でした。
最後に一つ、「実はお金持ちよりも、適度にハンディキャップがある方が幸せ」という事も言っています。
「ごもっとも」と思いました。