
『現代バリュー投資: インデックス投資、アルゴ、アルファを超えて』 ゲイリー・スミス/マーガレット・スミス(著)
1930年代、著名投資家ウォーレン・バフェットの師匠とも言われているベンジャミン・グレアムによって、『賢明なる投資家』という名著が世に出ました。
この『賢明なる投資家』という本を、一言で言い表すなら、『バリュー投資』になるかと思います。
また、株式投資に対して、『バリュー投資』というアプローチ法が生まれたのも、このころからだったと言われいます。
この『バリュー投資』という考え方が生まれる以前、それまでの株式市場の世界は、ほとんどギャンブルそのものだったそうです。
『大馬鹿理論』。ある馬鹿者が高値でかった資産を、さらに高く買う大馬鹿者に売ることで儲けを得る。
そして、それをさらに高く買う大馬鹿者たちがいつづける限り、その資産価格は上昇を続けていく。
結果、南海バブル事件のような、非常に激しいバブルが生まれては崩壊するを繰り返す世界。
そんな中で、ついに世界大恐慌が起こり、世界中の株式市場が崩壊。
その崩壊した株式市場の中で、グレアムなど一部の投資家たちが価格の変動から切り離された本質的な株式投資の在り方を考え、株式のもつ資産価値に着目する『バリュー投資』という株式投資のアプローチ法を考えました。
株式とは何なのか、株式から得られる利益の源泉は何か、そういったことを考えながら投資をする、まさに投資の本質的な考え方だったと思います。
ですがそれから世間の目は、いつの間にかバリュー投資から離れていき、次第に現代ポートフォリオ理論に代表される金融工学という考え方が注目されるようになりました。
株式市場は非常に効率的であり、株式資産の価値は、その株価にすでに十分反映されている、という考え方が主流になり、個別銘柄で判断するよりも株式市場全体に広く分散させて投資をした方が良いという考え方が広がり、それと共にインデックスファンドに注目が集まるようになっていきました。
そして、そのインデックスファンドをさらに工夫する方法として、市場全体の中から特定のファクターを抽出するという方法が考案されるようになりました。
それが、ファクター投資やスマートベータという投資方法になります。高配当株やバリュー株、小型株といった特徴を持つ銘柄だけを集めてつくったインデックスで投資をするという方法です。
この本では、こんな風に株式投資へのアプローチ法が時代とともに移り変わってきた背景を学びながら、最終的には、株式の本質的価値を重視した『バリュー投資』に戻るべきだと提案をしています。
グレアムたちが教えた『バリュー投資』に、現代的な正規分布などの統計的アプローチを加えた、『現代バリュー投資』という方法になります。
流行りのインデックスファンドはオワコンなのか?
今の株式投資の主流といえば、インデックスファンドだと思います。
投資信託のタイプを大きく分けると、インデックスファンドとアクティブファンドの2つにわけることが出来ます。
積極的にリターンを狙いにくアクティブファンドに比べで、平均値どおりをマークするだけのインデックスファンドは、対してリターンがないものとおもわれていましたが。
現実として得られた運用成績は、その運用コストの安さや運用効率の良さなどから、アクティブファンドよりもインデックスファンドのほうが成績がいいという結果が出ています。
ある調査結果によると、8割から9割のアクティブファンドが、平均を狙うインデックスファンドよりも成績が悪いという結果もあります。
このことが一般にも広く知れ渡るようになったことで、次第に多くの投資家がアクティブファンドではなくインデックスファンドを買うようになってきました。
しかしアクティブファンドがインデックスファンドに負けているからと言って、インデックス運用がアクティブ運用よりも優れているとは限らないという意見もあります。
実は、インデックス運用にもいろいろと問題点として指摘できるところがあり、本書ではその点についても深い考察をしています。
今では多くの場面で使われるようになった金融理論ですが、そもそも金融市場を正規分布で分析しようとするアプローチの無意味さや、株式投資のような不確実性の高い世界で過去のデータを使って分析しようとすること自体が大きな間違いであることなどを問題点として指摘しています。
そして、より多くのヒストリカルデータ(過去のデータ)をつかうことで、精度の高い分析ができるという考え方が主流になってきたことで、金融市場をかえってまちがった感覚で捉えてしまっていることなどを説明しています。
それでも、結果だけを見れば、インデックスファンドがアクティブファンドよりも良いパフォーマンスを出すという状況は、今後も変わらないとは思います。
しかし、そのインデックスファンドの利点は、単純に、『低コスト』で、『広く分散が効いている』、というだけなのかもしれません。
現代バリュー投資とは?
最終的に本書では、株式投資は昔から考えられてきた『バリュー投資』というアプローチが向いていると言っています。
ただ、グレアムたちが活躍した1930年代のバリュー投資の時代と、今の株式市場は、大きく環境が変わってしまっているため、現代の市場に合わせたバリュー投資を考えなければならないとしています。
たとえば今は、昔と違い、株式投資に関連する情報が瞬時に広がるようになっています。また、誰でも簡単にその情報を手に入れることができるようにもなっています。
まさに『効率的市場仮説』が提唱している通りのことが起こっています。
そのため、昔に比べるとバリューの銘柄を見つけることが難しくなっていて、グレアムの時代のような「極端に安くて、買った瞬間から利益が出る」みたいな投資はできにくい環境になってしまっています。
そのため今の株式市場では、「安いのには、安いなりの理由がある」と考える方が賢明で、その結果、投資する銘柄を分析し労力をかけて探そうというよりも、市場全体を買ってしまうというアプローチの方が効果的だというわけです。
しかし本書によれば、その結果として起きてしまっていることが、現代ポートフォリオ理論などの現代の金融理論にあるような「短期的な値動き」に注目する投資方法へと、次第に寄って行ってしまっているという話です。
株式の本質的価値よりも価格の変動に注目する、『バリュー投資』が生まれる前の『大馬鹿理論』の感覚に向かっていってしまっているというわけです。
そのため、もう一度グレアムたちが考えた、『株式という資産の本質的な価値』に注目して投資をする姿勢に戻るべきだというのが、本書の目的です。
グレアムの時代にバリュー投資を提唱した、ジョン・バー・ウィリアムズによれば、株式投資の本質的価値は、『配当金』にあるという話です。
ただ、ウィリアムズが言うように、「そもそも投資をする目的とは、インカムゲインを得ることにある。」のだと考えると、『配当金』に注目するのは悪くはないのですが。企業の株主還元策には、配当以外にも自社株買いもあるという方法があることも忘れてはいけません。
本書の提案する『現代バリュー投資』とは、インカムゲインを目的とするところはウィリアムズの考えと同じ視点ですが、配当だけでなく自社株買いも考慮して株式の価値を考えることにあります。
また、データとして分析するところは、短期的な株価の動きなどではなく、将来のインカムゲインの予測の不確実性を考えるのが良いとしています。
しかし、そのような方法をとったことでどのような効果があるのかを、本書の中では、具体的な数字としては明示されていないので、この『現代バリュー投資』という手法が、どこまで信用できるのかはわからないなとの印象もありました。
ただ、株式投資を「短期的値動き」ではなく、「本質的価値」の世界に戻すという考え方には、一理あるのではないかと思います。