経営者のお金管理の考え方。
企業の経営者や個人事業者などに向けた本です。中でも特に、『お金の管理と会計』に着目して書かれています。
会計というと、財務諸表や資金繰り表、キャッシュフロー表などを見ながら、企業の健康診断を行うものだという印象があります。しかし、実際には会計の知識に明るい経営者というのは意外と少数派で、試算表などを使って経営状態などの話をされても、いまいちピンとこないという人の方が多いような気がします。
中には、「試算表や会計の数字なんて見ても大した意味はない。」と考えている人もいるかもしれません。
税理士などから、定期的に『会計の数字』で会社の財務状況等の説明を受けても、経営者にとっては、あまりピンとこないと感じてしまうのには、『会計の数字』と『経営者の感覚』にずれが生じているためです。
「なぜそうなってしまうのか?」、「そもそも会計の数字は経営者にとって必要ないものなのか?」、そんな疑問が、この本を読んだ後には、すっと解決した気持ちになることでしょう。
財務諸表は、経営者ではなく第三者に向けて作るもの。
会計の知識は経営の役には立たないので、財務諸表も無意味なものなのかと言うと、そういうわけではなく、会計という仕組みは、主に融資や出資を行う『銀行』や『株主』、『税務署などの行政機関』といった、第三者に見せるためのものというのが本来の趣旨です。
だから、経営者が会計の帳簿などを見ても、その会計帳簿が、経営者ではなく第三者に見せるために作られたものなので、会計帳簿が経営者の経営の指針とはならないことが多いわけです。
言い方を変えるなら、会計帳簿を見て得られる情報が、経営者にとって経営のために必要としているものと違っているという事です。
そこで、本書では、会計帳簿からちょっと離れて、「プロフィットファースト」、つまりは『利益を重視しろ』といっています。
会計士がつくる会計帳票にでてくる『利益』というのは、結果であって、「何がどうなって、いくらの利益が出ました。」という話になることが多い。
しかし、「それが、そもそもおかしい。」と本書では言っていました。
「利益は売上から差し引くものであり、その残りが事業経費だ!」という考え方に180度視点を変えなければいけないと言っています。
「まさにその通り!」。まずは利益を先に確保して、残ったお金で経費に充てる。その順番が経営する感覚なのだと思いました。会計帳簿と経営者の感覚にずれが生じている大きな要因は、そこにあるのかもしれません。
プロフィットファーストでお金を管理する。
収入から利益を抜いて、残ったお金で事業を行う。その経営の感覚に合わせるように経理のシステムを見直して考え出された方法が、この本で紹介されているものです。
まず目的ごとに預金口座などを作り、その口座の中でお金のやりくりをする。口座の中にお金がなければ、「それは使ってはいけないお金だよ」と銀行口座を見るだけで、支出に対してある程度のコントロールできる。
売上入金口座、利益口座、税金口座、事業経費口座、社長給与口座、それぞれの口座を用意して、売上が入金されたら、それぞれの口座に配分し、口座に入っているお金の範囲で事業経費などをやりくりする。
これなら、試算表などの帳票を作らなくても、口座の残高を見ていれば、今月は儲かったのか、それとも上手く行かなかったのかを把握ができるという、会計帳簿とは違った『直感的なシステム』です。
会計士等などの会計の専門家から見たら、「売掛金や買掛金は?」などと指摘したいことも多々あるかもしれませんが、経営者からしたら、直感的に理解できて、いつでも銀行口座を見ればすぐに状況が把握できるというのは、とても使いやすいシステムだと思います。
目的別口座の利用は、家計管理でも応用できる。
実はこの目的別に口座を作ってお金を管理するやり方は、キャッシュフローが良い会社や経営が安定していて利益が出ている会社ほど、すでに利用していることが多い気がします。
本書のプロフィットファーストのシステムとはちょっと違うと思いますが、経営者たちは自分たちで工夫しながら、自然とプロフィットファーストに近いシステムを作り上げていったのかもしれません。
そういう実績から見ても、このプロフィットファーストの仕組みや考え方は、価値のある考え方だと思いました。
最後に、このプロフィットファーストは事業者だけに限らず、家庭にも応用できると思います。
賢く貯金をするためには、「給与をもらったら、自動的に貯蓄口座に移しましょう」という方法が最も効果的だと思います。
「収入から、節約するなどして使ったお金を引いて、残った分が貯蓄。」という順番ではなく、先に貯蓄額を決めて、引き出してしまう。
給与から一定額を自動的に天引きし、そのお金は最初からなかったものとみなして、残りのお金でやりくりする。そして、さらにその貯蓄を投資に回したりすることで、その投資から生み出される利益によって、より収入が増えるようになる。
本書では、お金を貯めると、その貯えたお金が生み出す利益によって、必要なお金を使いながらも、どんどんお金が増えていくようになると説明しています。
プロフィットファーストは、ただ貯めるだけではない。その先も見据えたお金管理の仕組みです。