相続問題の本質とは?

いろいろと気づかされた本でした。事業を行ったり投資をしたりして、資産を築いた後に出てくる問題。それが、「その資産を今後どうするのか?」です。つまり、「どう継承していくのか?」という問題です。

最近では、相続税の基礎控除が下がるなどし、相続税の申告が必要な人が増えてきました。それにより、今まで以上に相続という問題が広く認知されてきています。

相続の問題と言うと、税金のことと、誰にいくら相続させるのかだと思われがちですが、実際にはそれだけでは済まないという事が、この本を読むとわかります。

相続とは、残した資産で、子孫たちに『どういうことを伝え、教えていきたいのか』というのを考えることが大切なのかもしれません。

一族の財産は、三代で終わる?

本書では、「三世代にわたってシャツの袖から袖へ」という言葉が頻繁に使われています。

これは、三代目には財産は失われるといった意味です。日本でも「三代で財産がなくなる。」なんて言われているし、どうやら『三代目で財産が失われる』というのは、世界共通の認識のようです。

でも、なんで三代目で財産が失われるのか、その理由としてよく聞くのは「相続税が何度も課税されることによって財産が消えていく」という話です。

しかし、『三代目で財産が失われる』が、世界共通の認識なのであれば、相続税という国内の事情がその原因であると考えるのは間違っているような気がします。

現にこの本の筆者も、『税金対策をメインとした相続対策は大して意味がない』と言っています。むしろ、税金対策というマイナスの話から相続対策の話を始めることは間違いだと言っています。

子孫へ良いものを残していきたいというプラスの考え方に、税金対策の話は、なじまないというのがその理由です。

三代で財産が失われる本当の理由?

富豪の三代目というと、「三代目は苦労をしらない」といった話もよく聞きます。実は、三代で財産が失われる大きな理由には、このような言葉の中にこそ原因があるのだそうです。

本書では、資産を承継していくために一番大切な視点は、『教育』だと言っています。具体的なモデルとしてロスチャイルド家を例に挙げて、その教育の大切さを説明しています。

相続で最も大切なことは、『代々、「教育」を繋いでいく。』ということであり、それが本当の意味での『資産承継』なのだそうです。

子供たち、又は孫やその先の世代に、『自分の資産を使ってどう教育をしていくのか』、それが相続という問題にとって、一番大切な視点なのだそうです。

相続というと、お金や土地といった財産を引き継ぐという意味合いが多いように見受けられますが、この本では、このような財産を『財的資産』。そして、ファミリーメンバーが培ってきた経験や知識を『人的・知的資産』として財産を分けて考え、特に後者の『人的・知的資産』をどのようにつないでいくかを中心に相続は考えるべきだと言っています。

どんなに『財的資産』を残そうといろいろ工夫や対策をしても、『人的・知的資産』が残らなかったら、『財的資産』も残らない。まさに「三世代にわたってシャツの袖から袖へ」です。

しかし、うまく『人的・知的資産』が受け継がれていくシステムを『財的資産』を活用して作ることができれば、それは財的資産の保全、もしくは財的資産の規模拡大にだってつながる可能性があります。

では、その人的・知的資産とはどういうものなのか、そして、どうやって繋いでいけばいいのか。

本書では、ロスチャイルド家の例を挙げながら、どのようなシステムを作るべきなのか、そしてそのシステムをうまく機能させるためには、どういう所に注意したほうがいいのか、といったことを本書では説明しています。

とても興味深い内容でした。

この本を通じて改めて『教育』というものの大切さを実感しました。

財的資産がいくらあっても、その財的資産が弊害となって『教育』がおろそかになるぐらいなら、多額の財的資産を残すことは返って一族を不幸にしてしまうのかもしれません。

よく「子供にお金なんて残す必要はない。死ぬまでに全財産使い果たしてしまおう」と言っている人を見かけることがありますが、『教育』さえ残せていれば、財的資産に執着する必要は全くないという事も考えさせられます。

相続対策という問題の本質は、お金の問題ではなく『教育』というところにあるようです。