資産形成の基本の書
資産形成を始めるにあたって、参考になる本を探しているという人にとって、この本はおそらくベストな選択なるかもしれないと思いました。
貯蓄の考え方から投資と資産運用まで、資産形成に必要なことがすべて書かれていて、なおかつそのすべてに説得力のある説明をしています。著者がデータサイエンティストらしく、ただの理屈や経験論ではなく、データを使って解説している点も好印象でした。
有名な株式投資の本などを書いている経済学者のジェレミー・シーゲルが、「人は、大量かつ明確な歴史的なデータより、恐怖に突き動かされて投資をしている。」という言葉を言ったそうですが、まさにその言葉通り、私たちは、データをもって、貯蓄や投資を考えるべきだということに関しては、同意見です。
この本は、資産形成の教科書といっても過言ではない内容でした。
貯蓄と投資について、よく「投資するほどのお金がない」という言葉を聞くことがありますが、それでは、「一体いくらの貯蓄が出来たら投資を始めていいのか」と質問されて、明確に答えられる人はほとんどいないのではないでしょうか?
「投資するほどのお金がない」というのは、何の根拠もなくいっている可能性が高いので、私たちはその言葉を鵜呑みにしてはいけないのだと思います。
実際、「自分が思っているほど貯金をする必要はない」、ということを本書では説明しています。老後資金のほとんどが、亡くなった後も残っている人が多いというデータから、私たちが思っているほどの貯金額が必要ない可能性を説明しています。
つまり、必要以上の貯蓄をしているのなら、その貯蓄の一部は元本割れのリスクを伴った投資資金に回しても、老後資金への影響はほとんどないことになります。
私たちは、私たちが思っている以上に投資に使えるお金があるのかもしれません。
私たちは、『公的年金』という制度があることによって、私たちが本来老後に向かってしなければいけないことを、忘れてしまっているのかもしれません。
時間と体力がある若いうちは、働いて稼ぐ『人的資本』が中心ですが、リタイヤ後の老後に向けて、労働外で収入を作る『金融資本』へと徐々に移行していかなければなりません。
『公的年金』という仕組みは、その金融資本への移行を一部肩代わりしているといえるわけです。
要は、「投資ができない」ではなく、投資をして金融資本を作るスキルは、そこそこの生活をいつまでも続けていくための、必須スキルと言えます。
とはいえ、投資以前に貯蓄から始めるというのは、資産形成の基本中の基本です。
データからわかる、貯蓄をするために本当に必要なこととは何なのか。この本を読むと、きっとその答えに納得することになるのではないかと思います。
ジャスト・キープ・バイイング
この本のタイトルでもあるジャスト・キープ・バイイング。つまりは、ドルコスト平均法のように、ただただ買い続けろということです。
いつ買うかというタイミングも、いくら買うかという問題も、そういうことは気にせず、できる限り早く、たくさんの資金で投資し続けることが資産形成の正解だと言っています。
中でも、意外だったのが、タイミングを分けて投資をするドルコスト平均法的な投資方法は、それほど意味がないと結論付けていることです。
できることなら『一括投資』がデータから得られる正解だそうです。
実際に、米国株100%に分割して積立投資をしたリスクと、即時一括で米国株60%と米国債40%のポートフォリオに投資をした際のリスクレベルは、ほとんど同じになるのだそうです。なおかつ、リターンはわずかに後者の方が優れていたという話がありました。
この話は資産運用にとって、とても大切なことを教えてくれていると思います。
資産運用の話で、よくリスク分散の説明として、『資産や銘柄の分散』、『地域の分散』、『時間の分散』と言われますが、本書のデータによれば、このリスクの中で本当に分散すべきものは、『資産や銘柄』ということになります。
これが資産運用の基本中の基本、つまり『資産配分』です。リスクのコントロールは、『資産配分』が最も重要な考え方だということを教えてくれます。
リスクコントロールで、現代ポートフォリオ理論などがよく取り上げられていますが、実際の資産運用の基本は、『安全資産』と『リスク資産』の資産配分なのです。
この本は、そのことを新ためて認識させてくれました。