『まぐれ』とはなんなのか?
この本は、とても読みにくいと感じるところがあったり、内容や概念を捉えにくい印象もあり、はっきりいえば、難しい本という印象です。
しかし、この本を読んでいると、難しいながらも内容自体はとても大切なことが書いてあると感じます。
この本が難しく感じていますのは、内容自体が難しいのか、それとも『まぐれ』や『偶然』という概念自体が、そもそもわかりにくいということなのだろうか?
単純に『まぐれ』と表現しているけれど、この本の中の『まぐれ』という言葉は、非常に内容が濃い『まぐれ』という印象です。
投資や資産運用をしている人ならば、『リスク』という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
投資や資産運用で使われている『リスク』という言葉は、「下落リスクが何%」といった表現で使われることが多く、損する確率や、損する範囲などを連想することと思います。
しかし、本当の意味での『リスク』は、そうではありません。『リスク』とは、『不確実性』を指す言葉であり、この本のタイトルでもある『まぐれ』そのものです。
もっというのであれば、損する確率や価格の変動幅で『リスク』という言葉を使っている人は、もしかすると『まぐれ』というものを、理解できていないのかもしれません。
そもそも『まぐれ』や『不確実性』というものは、「どうなるかわからない」というものではあり、一概に「この範囲ないで動く可能性がある」と決められるようなものではなないはずです。
どうやら私たち人は、その「どうなるかわからない」という考え方が、いまいちピンとこないものなのだそうです。
今ある幸運も不運も、たまたまのものである(まぐれ)という事を認識するのは、簡単な事ではありません。そして、不確実性やリスク、まぐれ、というものをうまく認識できないのは、どうやら私たちの脳に大きな原因があるようなのです。
『まぐれ』を認識できない私たちの脳。
人は、確率の話を正しく認識することが出来ません。
株価の予測や天気予報、ギャンブルなど、様々なところで、パーセントという単位を使って、確率の話をしていますが、本当の意味での確率は、私たちが思っているようなものとは全然違うもののようです。
人の脳の中では、『偶然』や『まぐれ』、『不確実』といったものは、できるだけ除外しようとする働きがあるために、『確率』というものを正しく認識できないのだそうです。
それは、本書を書いたタレブのような『確率』を研究している人も例外ではないと著者(タレブ)は言っています。
確率がなぜ正しく認識できないのかの説明については、本書に任せるとして、本書の中で、「なるほど!」と思わされことに、人の脳の、直感的なシステム1と論理的なシステム2という思考経路があるという話です。
そして、基本的には直感的なシステム1で物事を捉えるそうなのですが、実はそのシステム1が確率を認識しないのだそうです。
それなら、システム1を排除すれば、論理的で合理的な、確率に沿った判断ができるのではないかと思うところですが、確率という不確実な事であるために、今度は、『選択という行為』そのものが出来なくなってしまうという話でした。
よくよく考えてみれば、私たちの生きている世界では、選択肢することばかりです。
もっといえば、ほとんどの物事が、確率的なことばかりで、まぐれと偶然ばかりです。この世界は、まぐれと偶然しかないといっても過言ではないかもしれません。
そんな中で、私たちは選択するスピードを上げるため、進化していく中で「『確率』というものを排除する」という選択をしたという事だそうです。
『確率』を正しく認識できた方が、正し選択ができる気がしますが、『確率』の世界に入ると、正しい選択ができなくなる。
人の脳は、うまくできているのか、それともうまくできていないのか、複雑な話になってきました。
それでも、株式市場などの金融市場や投資の現場では、その確率や不確実性やまぐれというものを扱っていかなければならない。この『確率』や『不確実性』や『まぐれ』というものの取り扱い方を間違えれば、死活問題になることもあります。
本書は、「金融市場とは、どういう所なのか?」ということを理解するのにとてもためになる本でした。