わたしたちは偶然をわかっていない?

世界の成功者たちが、『偶然』を手にいれたことで成功している。

「成功というのは、『努力』や『才能』によって手に入れるもの」、という認識が一般的ですが、現実の話としては、『努力』や『才能』よりも、最終的に『運』がなければ成功者にはなれないというのが真実だと言っています。

『運』といえば、わたしたち個人の力ではどうにもならないものという印象です。

たしかにその通りではあるけれど、『努力』や『才能』によって、『運』を味方につけることができる確率が上がることもまた真実だと思います。

私たちは、いい結果が得られると、「自分の努力と才能の力だ」と思うようになり、悪い結果になると、自分のせいではなく運が悪いからだと周りのせいにする。

自分の運を過信し、偶然というものを正しく認識できないところが私たちにはあります。

私たち人間は、進化の過程でそのような運や偶然を正しく認識できないように進化してきました。『運』を正しく認識できない方のが、人類は生き残りやすかったというわけです。

しかし、今の世になり、偶然を認識することがより必要とされてきたのかもしれないと、最近感じています。

その一番の理由は、「格差の広がり」です。

今、世界中で所得格差がどんどん広がっている。

日本でも中間層が減って、上と下の2極化がより広がっているといった見出しのニュースをよく見かけるようになってきました。

偶然を認識することで、格差の上の人たちは、「自分の努力や才能」よりも「自分が恵まれている」という意識を持たなければいけない時代なのかもしれません。

所得格差の最上位に位置する投資家のウォーレン・バフェットが言った話で、本書の中にも登場してきますが、「卵巣の宝くじ」という言葉があります。

つまりは、私たちは「生まれてきた時点で、既に幸運を掴んでいる」という話です。

バフェットが、投資家として成功できたのには、バフェット自身の努力や才能以前に、「アメリカに生まれた」という偶然によるものが大きいと考えているという話です。

そして、卵巣の宝くじであたりを引いた者は、「当たらなかった人を敬うこと」と言っています。

つまり、偶然にも幸運を掴んだものは、そうでない者に対し、自分の成功をひけらかすことなく、世界に感謝し、そして還元することが必要とされているということなのではないでしょうか?

格差が広がる中、格差の上にいる者たちは、より自分の下にいるものに気を配る必要が出てきているのかもしれません。

今いる自分の位置が、『自分の努力や才能』以前に、『偶然によるものである』ということを意識することで、そういう気持ちが生まれてくるのではないかと感じています。

この本の目的は、『累進消費税』という制度の啓蒙にあるようです。

『偶然』という話に興味を持ち、この本を手に取ったわけですが、どうやら『偶然』の話よりも、本書の目的は、『累進消費税』という制度の解説にあるようでした。

この本の著者『ロバート・H・フランク』が書いた本で、『幸せとお金の経済学』というものがありましたが、こちらの本もやはり『累進消費税』の導入を解いています。

格差が広がり、消費にも格差が生まれる中、格差の下のものは、格差の上のものに追いつこうと、自分の身の丈に合わない消費行動をする傾向がある。

いわゆる『無駄遣い』によって、幸福感を失っている傾向にあると言っています。

本書の中出でてきたフェラーリとポルシェの話。

フェラーリもポルシェも、性能はそれほど大きくは変わらない。それなのに、フェラーリはポルシェの倍の値段。合理的に考えれば、そこに意味があるのか不思議な話なのですが、現実問題としては、プレミアム感からか、フェラーリを選ぶお金持ちが多いと言っています。

そしてその消費行動の影響を、少なからず格差の下にいるものも影響を受けていると著者は言っています。

その結果、実際にはそこまで支出する必要がない、要は無駄遣いのために、長時間の労働をし、休みを返上し、挙句の果てに鬱になったり、破産したりと言った事になっている人が増えているというのです。

そういう社会を変えるために、『累進消費税』の導入が望まれると説明しています。

累進の消費税、つまりは、消費額に応じて消費税率が増えていくといったもののようです。

たくさん消費する(その多くが、生きていくために必要なものではなく、贅沢品であると考えている。)人に、たくさんの税金を納めることを求めれば、格差の上のものも、不必要なものへ消費することが減るのではないかと考えているわけです。

そして、その下の者たちは、格差の上の人の消費行動に釣られることなく、自分にとって本当に必要なものを買うことができ、借金などに頼ることのない、安定した生活がおくれるようになるのではないかと考えているようです。

本書は、結論から言ってしまえば、 偶然という話を学びたいというよりも、『累進消費税』という制度に興味がある人向けの本という感じのものでした。

結果的に、この本を買った当初の目的とは違ってしまった印象でした。