世界最高のヘッジファンドのその後

この本は、数学者ジェームズ・シモンズが始めたヘッジファンド、ルネサンステクノロジーズの物語、上下巻の下巻です。

【参考】

『最も賢い億万長者〈上〉 数学者シモンズはいかにしてマーケットを解読したか』 グレゴリー・ザッカーマン(著)

上巻は、ジェームズ・シモンズという人の物語が中心でしたが、下巻はジェームズ・シモンズよりも、ジェームズ・シモンズが創業したルネサステクノロジーズを中心とした物語になっています。

下巻を読むと、ジェームズ・シモンズがすごかったというよりも、ジェームズ・シモンズが作ったチーム。つまりは、ルネサステクノロジーズの力がすごかったのかもしれないと感じさせられます。

この下巻では、上巻以上にルネサステクノロジーズのメンバーが表に出てきます。ジェームズ・シモンズがルネサステクノロジーズの主役から降りたあとも、シモンズの後を継ぐメンバーがどのようにファンドを運営し、活躍してきたのかを知ることが出来ます。

ルネサステクノロジーズのメンバーが米国の大統領選など政治の舞台でも重要な役割を果たすようになってくる話もあり、その存在感の大きさを感じさせられます。

ルネサステクノロジーズの投資哲学とは?

この本でルネサステクノロジーズの話をたどりながら、ジェームズ・シモンズが始めたヘッジファンドの中心にある考え方や、ルネサステクノロジーズの投資の考え方などを感じられます。

ルネサステクノロジーズの運用は、クオンツと呼ばれる統計や数学を駆使した投資手法を使っています。クオンツとは、膨大な市場のデータを集め、そのデータを解析し、さらにその中から法則性を見つけて確率をもとに投資をするという、データと統計そして数学的なアプローチを行う投資のスタイルのことを言います。

クオンツ運用と言うだけでは、特にルネサンステクノロジーズの運用パフォーマンスである年率40%という驚異のリターンをたたき出すための際立った特徴があるというわけではありません。この本の目的は、そのルネサンステクノロジーズのただのクオンツを超える、その根幹にある考え方や着目点を知ることです。

ルネサステクノロジーズの根幹にある投資の考え方には、「市場は非効率的である」ということがあります。

現代ポートフォリオ理論などの一般的な金融理論では、「市場は効率的である」ということが前提となって出来ています。よく聞くインデックスファンドなどはその「市場は効率的である」という考え方の象徴的なものです。

ルネサンステクノロジーズが、市場が非効率的であると考える理由には、市場に参加する人そのものが合理的ではないことが原因になっています。市場のどこかに人の非合理的な癖のようなものが見つかるはずなので、それを利用して投資を行うというスタイルが、ルネサステクノロジーズの運用方針となっているようです。

言われてみれば当たり前のようにも思える考え方ですが、実際にそれを実現することは、とてもむずかしいことです。一個人で行おうと思っても、ははっきり言って不可能なことです。

だから私たちは、「市場は効率的である」という考え方の効率的市場仮説という理論を採用し、インデックスファンドなどを使うようになっているのかもしれません。

しかし、市場が非効率的だと考えているルネサステクノロジーズなどの活躍を見ると、いくら効率的市場仮説とインデックスファンドが現実的な考え方だとはいえ、極端に効率的市場仮説の考え方に固執するのは、危険なのではないかと考えさせられます。

仮にインデックスファンドで運用していたとしても、私たちは「市場には非効率的なところも存在する」という認識を持っておくべきなのかもしれません。

最後に、本書では「財産を築くだけでなく、その財産で何をするか」というところにも触れていました。実際、シモンズは、その膨大な財産で、慈善事業に取り組んでいます。

そこでもシモンズは、金融市場に立ち向かったときと同じように、大きな難題と向き合っています。

ただお金を稼ぐことが目的ではなく、新しい問題を見つけては、それを解明するためにまた稼いだお金を使っていく。シモンズは、問題を見つけては答えを探すことが大好きな、根っからの数学者なのかもしれないと思いました。