投資家ケインズ
ケインズといえば、有名な経済学者だという認識を持つ人がほとんどだと思います。
しかし、ケインズはただの経済学者ではなく、投資家でもあった。理論家としてだけでなく実務家でもあったようです。
この本の話は、経済学者としてではなく、投資家としてのケインズ、『投資家ケインズ』の話です。
経済学者が、実際に投資家として活動し、なおかつ偉大な実績を残していたという例は、あまり例がないと感じています。
しかしケインズは、経済学者としての名声と、投資家として十分すぎるほどのパフォーマンス、その両方を手にしていたというとても稀な存在だったようです。
ケインズは、投資を始めた初期のころは、自分の持っている経済や確率などの理論を駆使すれば、市場を出し抜き、投資で儲けることができると考えていたようです。
実際、自分で考えた理論やたくさんのデータをつかって、需給を予測し、コモディティ取引などで短期売買を行い利益をあげようとしていました。
しかし、それらのアプローチは結果的には失敗に終わった。
市場にあるのは不確実性ということのみで、過去のデータを使って未来を予測することは不可能だということに気づいただけだったようです。
そして、理論やデータで調べようと思ってもどうにもならないものとして、『アニマルスピリット』が挙げられると考えていたようです。
『アニマルスピリット』とといえば、ケインズが使った言葉の中でも有名な言葉の一つです。
予測できない市場で、ケインズはどうやって投資家としてパフォーマンスを上げてきたのか。
効率的市場仮説や現代ポートフォリオ理論といった理論的な運用が流行っている現在よりずっと昔に、すでにデータや理論ではどうにもならないものがあると気づいていたケインズ。
実際に投資家として活躍することで、現場感覚で体験し学んできた相場感覚。
理論と感性がうまく組み合わされた、最高レベルの投資家なのかもしれないと思いました。
そして、その真髄は今でも間違いなく通用する投資の原理原則だと思いました。
本書には、そのケインズ流の投資の教訓が書かれています。
投資を学ぶ本として、おすすめの本の一つだと考えています。
ケインズの時代は、投資家にとっては不運の時代
ケインズが投資家として活動していた期間は、2度の世界大戦と、世界大恐慌という時代。
投資家として活動するには、歴史的にも良くない時代であったと思われます。
1929年にピークを打ったNYダウは、最大90%近い下落をし、1929年のピーク時の水準を取り戻すまでに約25年もかかったと言われています。
そういう意味では、投資の神様と言われるウォーレン・バフェットよりも悪い境遇のなかで投資家としてパフォーマンスを上げていたと言えるのかもしれません。
「もし現代にケインズが生きていたら、一体どんなパフォーマンスで運用していたのだろうか?」と思わなくもないですが、投資の世界でそんなことを考えても、あまり意味がないというのも、また一つの原理原則なのでしょう。
ケインズの投資パフォーマンスの良さの真髄は、市場が暴落している中で、下落率を抑えるというところにあったようです。
1931年に米国株が約43%下落した際、ケインズのポートフォリオは、約25%の損失で踏み止まり、1937年に米国株が約35%下落した際には、約8.5%の利益を出していたと言っています。
損失に強い運用、まさにこの時代にあった運用だったのかもしれません。
ケインズが取った投資戦略は、先の読めない不確実性に見事に対応したものだったのかもしれません。
大恐慌にも負けない投資戦略。株式投資で資産形成を目指す人なら、ぜひとも知っておきたい投資法だと思います。
株式市場が不確実性のものであるなら、これから株式市場の好調期が終わり、十年単位で低迷する株式投資の冬が来ないとは決して言い切れないのではないでしょうか?
そんな事になっても、株式投資をつづけれらる根拠ともなる、世界大恐慌を乗り切った投資戦略。
この本は、ケインズという一人の投資家の失敗から成功までの経歴を負いながら、大恐慌でもの超えることができた実績のある投資の教訓が学べます。