効率的市場仮説の考え方は、現実的ではないようです。
「市場均衡」、「効率的市場仮説」、これまで資産運用の業界で当然のように語られてきた理論です。
投資信託やファンドラップ、今ある金融商品の多くで、この『効率的市場仮説』などの考え方を利用して商品設計などがされていものが沢山でています。
効率的市場仮説から発展してきた現代ポートフォリオ理論。ノーベル賞を受賞した金融理論として、広く知られるようになってきました。
しかし、どうやら「効率的市場仮説」という理論には、実際おかしなところが見受けられる。そのことをこの本は教えてくれています。
確かに、実際に自分で株式投資などを通して金融市場を見ていると、肌感覚としては、「市場均衡」や「効率的市場仮説」といった考え方には、少し違和感を感じるところがあります。
この本を読み終わったとき、それらの疑問がスッと解決しました。
「市場とはどんなところなのか?」、「市場には、どんな力が働いているのか?」、それを理解するのに、これほど役に立つ本はそうそうないと思いました。
効率的市場仮説を疑え
効率的市場仮説の考え方の怪しいところに、『バブル』という存在があります。
株式投資をやっていない人でも皆知っている、『バブル』という言葉、そして『バブル崩壊』という現象。
効率的市場仮説が言うように、「市場は常に正しい価格を提示している」ものなのだとしたら、なぜ知らず知らずのうちにバブルが起こり、そしてそれが突然崩壊して多大な損失を発生させるという現象が起こるのだろうか?
「本当に市場は効率的、合理的なのだろうか?」という疑問を持つものです。
経済学では、市場は「見えざる手」によって歪んだものは必ず正されている。つまり、市場では常に正しい答えを導いているという、いわゆる「市場均衡」という考え方がありますが、現実の市場では、上に行ったり下に行ったりを繰り返していて、常に正しいというわりには、結構大きな変動を繰り返しているような気もします。
つまり市場の持つ効率性とは、あらゆる情報を瞬時に取り入れる「効率性」であって、「常に正しい価格を提示している」という意味での「効率性」ではないということです。株式市場は情報を瞬時に反映させる効率性は高いが、その情報を正しく理解し、正しい価格を示しているかどうかは、また別の問題なのだそうです。
そして、その理由の一つとして「正のフィードバック」という現象が挙げられるとのことでした。
「正のフィードバック」とは、ある行動が、他のところに影響を及ぼし、その影響がまた他のところに影響を与えているという流れのことです。
株式市場で例えるなら、「株価が上がったことで、その株価が上がったことを見てさらに株価が上り、そしてさらにその上がった株価を見て、また株価が値を上げる。」といった動きになります。
まさにバブルと言われる価格形成の流れそのものです。はたして、このようにしてできた株の価格は正しいと言えるものなのだろうか?
株式市場は、予測不能
また、この「正のフィードバック」の話から、株式市場の値動きが予測不可能であるということも説明できるのだそうです。
たとえば、「ある人がかなり正確な予測をできたとすれば、その予測をもとに取引する人が現れ、さらにその予測をもとに取引する人の行動を予想して取引する人も出てくる。」といった話も考えられるようになってきます。
こうなると、最初に「かなり正確な予測できた人」の予測は当たらなくなってしまいます。
株式市場では、こういうことが十分に起こりうると考えると、結局最終的には『予測不能』という結論だけが残ることになります。
複雑系というシステムで考える株式市場
株式市場は、天気や地震と同じように、複雑系の体系になっていると本書では考えています。
つまり株式市場は複雑系のシステムであるために、『均衡』という考え方が、株式市場にはそぐわなくなっていると、この本の著者は言っていました。
今の経済学の考え方には、「均衡」や「合理的」というものが基準になって考えられていることが多くなっています。そのため、経済学の話のほどんどが、実践に合わなくなっている可能性があるというわけです。
そして「効率的市場仮説」の考え方も、「市場均衡」という考え方からきています。しかし、この本の著者は、株式市場の本質的なところを見ると、「均衡」ではなく、「不均衡」という考え方をもとに市場を考えるべきではないのかと言っています。
この辺の話から、本の内容は物理学の話になっていきます。
正直なかなか話が難しく、理解するのが大変になってくるのですが、その中で理解できた点としては、市場が不均衡であると考えた場合、株式市場の本質は、「正規分布」ではなく、「べき分布」になっているという話でした。
つまり、投資信託やファンドラップなど、様々な投資商品設計の根幹にある金融理論である、『現代ポートフォリオ理論』が、根本的なところから崩れてしまう話になってしまいます。
なぜなら、現代ポートフォリオ理論の考え方は、金融市場の値動きを「正規分布」として考えているからです。
どうやらこの本の著者の話から考えると、「ノーベル賞を取った現代ポートフォリオ理論というのは、計算式としては正しいのだろうけど、現実世界の金融市場には合わない理論」、という事になってしまうようです。
所詮、現代ポートフォリオ理論から分かることというのは、昔から言われていている投資の原則でもある「分散投資は大切だよ」という一言だけのようです。
今、金融機関やファイナンシャルプランナー、投資のアドバイザーなど、多くの専門家が現代ポートフォリオ理論をもとに商品を設計したり、投資や資産運用のアドバイスをしたりしていますが、それらの話の内容のほとんどが実は無意味だった、という事になってしまいます。
とても興味深い本でした。
結論から言えば、この本の内容は、個人的にとても興味深い話でした。
そしてなによりも、今までなんとなく感じていた「市場均衡」や「効率的市場仮説」に対する違和感をすべて解決してくれたことに、とても感銘を受けました。
よくよく考えてみると、効率的市場仮説や現代ポートフォリオ理論には批判の声も多いものです。
いろいろと本を読んでいると、著名投資家たちほどこれらの話に批判的な意見を述べていたりすることがあるようです。
今の金融市場に関する学問のほとんどが、まだまだ理論と現実の間に大きなギャップが存在しているようです。