AIとは何者なのか?
この本の著者の前作『AI vs.教科書がよめない子供たち』は、いろんな意味で学ぶことが多い、良い本でした。
「AIが私たちの仕事を代わりにやるようになる」、「これからはAIを使いこなす人が勝つ」、などと言われていますが、本質的にAIがどういうものなのかというのは、私たちは意外とわかっていません。
この本の著者は、東大受験に合格できるAIを作ることを研究することで、実は今の世代の人たちは、読解力が低下しているという事を発見しました。
そもそもAIとは、私たちの脳と違って、その在り方が数学的な観点から作られており、確率や統計を利用していて、少なくとも現段階のAIには、物事を考える力はないのだそうです。
この物事を考えることができないというのは、今のAIの根本的な仕組みとして、どうにもならないものだとも言っています。
そしてAIは、そもそも考える以前に、認知するという作業さえ人にはかなわないのだと説明しています。
車を撮った写真を見て、その写真に車が写っているということを人はいとも簡単に認知します。
しかし、AIにそれと同じことをさせようとすると、車と背景の境界線が判別できません。そのため、AIに車を認識させるためには、車と背景の境界線を正しく判別できる確率を上げるため、膨大な車の写真データを集めて解析しなければ、車だと判別することはできないのだそうです。
AIは、所詮数学の世界から出ることが出来ないもの。人のように認知したり、考えたりするものとは全く別物だというわけです。
これだけでも、AIを世間的なイメージでしか考えてない人にとっては、目からうろこなのではないでしょうか。
文章が読めないAI
AIが得意な問題は、いくつかの選択肢から正解を選ぶ選択問題です。確率的に正しい選択肢を選ぶという作業は、人の脳力を超えています。
そのため、現段階のAIでも、一般的な大学入試の問題ぐらいなら十分に対応できてしまうと筆者は説明しています。
しかし、東大の試験は別物だったそうです。
一般的な大学の入学試験は『考える』ことよりも、『覚えている』が重視されているらしいのですが、東大の入学試験は、覚えているだけでは解けない問題なのだそうです。
東大では、『考える』ということが重視された試験問題になっているという話でした。そして、この『考える』という事の根本的なところには、『文章を読んで理解する』という事が求められることになります。
ところが、現代人の多くがこの『文章を理解する』ということが出来ていないのだそうです。
「そんなこともないのでは?」と思う人もいるかもしれませんが、本書の中の文章理解の例題を読むと、「あれ?」と思わされるところがあるものです。
不思議でしたが、文章を読んで理解するという事が、意外にも全然簡単なことではなかったようです。
そして、この本書の『AIに負けない子どもを育てる』は、文章を理解することそのものが『考える』という事につながってくるという事をより分かるような内容となってきています。
文章を読んで理解するためには、『考える』ことが必要です。これはAIには出来ないことなので、私たち人の強みになると考えられています。
意外にも、私たちが無意識的に行っている『考える』ということは、とても高度な事だったようです。
しかし、最近はそれが出来ない人が増えてきたと著者は言っていました。
仕事をAIに奪われるなどと言われているのは、AIが凄いわけではなく、「今の人の能力が落ちてきたのが大きな要因」だとこの本の著者は考えているようです。
自分には読解力があるのだろうか?リーディングテストが付いています!
さてこうなってくると、「自分には読解力があるのだろうか?」というのが気になってくるものです。
どうやら「本を読んでいるから読解力がある」、「学校の先生だから読解力がある」、というのは全くの見当違いのようで、本当に読解力があるのかどうかは、自分自身にもわかっていないのだそうです。
そして本書では、本当に読解力があるのかどうかを客観的に確認することが出来るリーディングテストの体験版が付いています。
実際に問題を解いてみると、文章を読んで理解するというのは、なかなか大変なことなんだと感じるのではないかと思います。
そして、読解力とはどういうことなのかということを実感することと思います。
東大に合格できる人とそうでない人には、この読解力に大きな差がある。そしてそれによって考える力が違ってくる。と筆者は考えているようです。
教科書を読んで、本当の意味で理解ができていれば、熱心に勉強をしなくても、テストで高得点がとれるようになる。
ところが、現代の勉強法や授業は、「詰込み」とよばれるような「暗記」に頼っていて、考える力を身に着ける学習ができていないというのが、現代人の読解力の衰えに繋がってしまっているのではないかと、筆者は考えていました。
この本で取り上げている題材は、本当に深くて良い話だと思っています。本書を読むと、「『高いレベルの読解力』が欲しい!」と思うのではないでしょうか。